カレンダーや暦で目にする「天恩日」「母倉日」「大明日」といった日や、「黒日」「十死日」といった耳慣れない日の呼び名を見かけたことはありませんか。これらは「暦注下段(れきちゅうげだん)」と呼ばれる暦の注記で、古くから日々の吉凶を示すものとして使われてきました。
このページでは、暦注下段に属する吉日と凶日の意味、その由来と歴史、六曜や選日との違いについて詳しく解説します。現代の暦では見かける機会が減った暦注下段ですが、その背景を知ることで、暦の奥深さを理解する手がかりになります。
暦注下段とは何か
暦注下段(れきちゅうげだん)とは、暦の下部に記された日々の吉凶に関する注記の総称です。単に「下段(げだん)」とも呼ばれます。暦注は大きく分けると、上段(日付・干支など)・中段(十二直)・下段に分けて記され、この下段にあたる注記が暦注下段です。
暦注下段には、天恩日・天赦日・母倉日・月徳日・大明日といった吉日のほか、黒日・帰忌日・血忌日・十死日・往亡日・五墓日・凶会日といった凶日が含まれます。これらは古代中国の陰陽五行説や干支、節気の考え方に基づいて定められたとされますが、その由来や解釈には諸説あります。
暦注下段は、江戸時代まで民間の暦に広く記載されていましたが、明治改暦の際に「迷信」として公式の暦からは外されました。しかし一部の暦やカレンダーでは現在も記載され、日取りを選ぶ際の参考にされることがあります。
暦注下段の吉日の種類と意味
暦注下段に含まれる主な吉日には、次のようなものがあります。それぞれの読み方と、一般的に伝えられている意味を紹介します。
天恩日(てんおんにち)
天恩日は「天の恩恵を受ける日」という意味で、万事に吉とされる日です。結婚・引越し・開業・契約など、新しいことを始めるのに良いとされてきました。天恩日は日の干支で決まり、60日のうちに5日間続く期間が3回(合わせて15日)あります。
天赦日(てんしゃにち・てんしゃび)
天赦日は「天が万物の罪を赦す日」という意味で、暦注下段の中で最も吉とされる日です。季節(立春・立夏・立秋・立冬で区切る)と日の干支の組み合わせで決まり、年に5〜6回程度訪れます。新しいことを始める、これまで躊躇していたことに踏み出すといった日取りに選ばれることがあります。
天赦日は暦注下段の吉日であり、六曜や選日ではありません。一粒万倍日や寅の日などと重なることもあり、その場合は「吉が重なる」と考える向きもあります。
母倉日(ぼそうにち)
母倉日は「母が子を育てるように、天が人々を慈しむ日」という意味で、婚姻・引越し・建築など、生活の基盤を整えることに吉とされてきました。季節と日の十二支の組み合わせで決まり(春は亥・子の日、夏は寅・卯の日など)、月に5回前後(秋はそれより多め)巡ってきます。
月徳日(がっとくにち)
月徳日は「月の徳を受ける日」という意味で、万事に吉とされる日です。月ごとに決まった十干の日(たとえば寅・午・戌の月は丙の日)が月徳日にあたり、月に3回程度訪れます。結婚・移転・新規の事業などに良いとされてきました。
大明日(だいみょうにち)
大明日は「太陽の光が隅々まで照らす日」という意味で、建築・移転・旅行などに吉とされる日です。日の干支によって決まり、比較的よく巡ってくる吉日です。
鬼宿日(きしゅくにち)
鬼宿日は二十八宿の一つ「鬼宿」にあたる日で、「鬼が宿にこもって外に出ない日」という意味から、婚礼を除いて万事に吉とされてきました。婚礼だけは凶とされる理由には諸説あり、解釈は一定ではありません。
神吉日(かみよしにち)
神吉日は「神事に関することに吉」とされる日で、神社への参拝・祭礼・祈願などに良いとされてきました。日の干支によって決まり、月に15日程度と比較的頻繁に訪れます。
暦注下段の凶日の種類と意味
暦注下段には吉日だけでなく、注意を促すとされる凶日も含まれています。現代ではあまり目にする機会は多くありませんが、その意味を知っておくことで、暦の歴史的な背景を理解する手がかりになります。
黒日(くろび)
黒日は受死日(じゅしにち)のことで、暦に黒い丸で記されたことから黒日とも呼ばれます。葬儀以外の万事に凶とされる日です。月の十二支と日の十二支の組み合わせで決まり、1か月に2〜3回程度巡ってくるとされます。黒日の由来には諸説あり、陰陽道の考え方に基づくともいわれますが、詳しい起源は明らかではありません。
黒日にあたる日であっても、それが直接不幸を招くという根拠はありません。心配な場合は避けて予定を組むこともできますが、過度に気にする必要はないとされます。
帰忌日(きこにち)
帰忌日は「帰ることを忌む日」という意味で、旅行や帰省、嫁入りなどに凶とされる日です。節月と日の十二支の組み合わせで決まり、月に2回程度訪れます。古い暦注の一つですが、現代の暦ではほとんど見かけることはありません。
血忌日(ちいみにち)
血忌日は「血を忌む日」という意味で、鍼灸・外科手術など血を扱うことに凶とされる日です。月ごとに決まった日が血忌日にあたります。医療行為に関する暦注は現代では実用性がありませんが、歴史的には日々の行動の指針として参照されていました。
十死日(じゅうしにち)
十死日は「十のうち十が死する日」という意味で、葬儀以外の万事に大凶とされる日です。月の十二支と日の十二支の組み合わせで決まり、1か月に2日程度巡ってきます。名前の響きから不安を感じる方もいるかもしれませんが、これも古い暦注の一つであり、現代の生活で特別に意識する必要はないとされます。
その他の凶日
このほかにも、往亡日(おうもうにち)・五墓日(ごむにち)・凶会日(くえにち)といった凶日が暦注下段には含まれます。往亡日は旅行や移転に凶、五墓日は土を動かすことや葬儀に凶、凶会日は万事に凶とされてきました。これらの凶日は、現代の一般的なカレンダーや暦ではほとんど見かけることはなくなっています。
暦注下段と六曜・選日の違い
暦注には暦注下段のほかに、六曜(大安・仏滅など)や選日(一粒万倍日・不成就日など)があります。これらはしばしば混同されることがありますが、暦注の中での位置づけや成り立ちは異なります。
六曜は、14世紀ごろに中国から伝わったとされますが、広く使われるようになったのは幕末以降とされます。明治改暦の際も公式の暦には載せられませんでしたが、民間の暦で使われ続け、第二次世界大戦後にカレンダー等で一般に広まったとされます。六曜は、もともとの暦の上段・中段・下段のどれにも含まれていなかった暦注です。
選日は、一粒万倍日・不成就日・八専・十方暮・三隣亡・天一天上など、暦注下段にも六曜にも属さない暦注の総称です。一粒万倍日は節月と日の十二支、不成就日は旧暦の月ごとに決まった日(8日おき)に配当されます。天赦日は選日ではなく、暦注下段に分類されます。
このように、暦注はいくつかの種類に分けられますが、どれが正しく、どれが間違っているということではありません。それぞれの由来や歴史を知ることで、暦との向き合い方が深まります。
暦注下段の由来と歴史
暦注下段の起源は、古代中国の陰陽五行説や干支、二十八宿などの思想に基づくとされますが、日本に伝わった時期や経緯については諸説あります。平安時代には陰陽道の影響を受けた暦注が貴族の間で使われていたとされ、その後、民間にも広がっていきました。
江戸時代には、民間で発行される暦に多くの暦注が記載されるようになり、庶民の日常生活の指針として親しまれました。暦注下段もこの時期に広く知られるようになったとされます。
しかし、明治5年(1872年)に太陽暦への改暦が布告された際、政府は暦注を「迷信」として公式の暦から外しました。中段(十二直)と下段の暦注は公式の暦から姿を消し、現在の国立天文台の暦要項にも載っていません。
それでも、民間の暦やカレンダーでは暦注が引き続き記載されることがあり、特に天赦日や一粒万倍日などは、現代でも日取りを選ぶ際の参考にされています。一方で、黒日や十死日といった凶日の多くは、現代の暦ではほとんど見かけることがなくなりました。
凶日との向き合い方
暦注下段の凶日を見て、不安を感じる必要はありません。これらの暦注は古い時代の考え方に基づくものであり、科学的な根拠があるわけではないからです。
暦注下段の凶日が示すのは、「注意を促す」という意味合いです。たとえば黒日が「葬儀以外に凶」とされるのは、日々の行動を慎重に考えるきっかけとして受け止めることができます。一方で、凶日にあたるからといって、必ずしも予定を変更しなければならないということではありません。
現代では、凶日の多くは一般的なカレンダーには記載されなくなっています。過去の暦注として知識として知っておくことは有意義ですが、日常生活で過度に気にする必要はないとされます。
もし凶日が気になる場合は、無理に予定を進めるのではなく、心が落ち着く日を選ぶという選択もあります。暦注は、自分自身が納得して行動するための参考の一つと考えるとよいでしょう。
現代における暦注下段の位置づけ
現代では、暦注下段のすべてが広く知られているわけではありません。天赦日や天恩日、母倉日といった吉日は、日取りを選ぶ際に参照されることがありますが、黒日や十死日などの凶日は、ほとんど意識されることがなくなっています。
暦注下段が現代まで伝わってきた背景には、人々が日々の行動に意味を見出し、吉凶を参考に生活を送ってきた歴史があります。一方で、明治改暦以降、暦注は公式には「迷信」とされ、国の暦からは外されました。
それでも、暦注下段を含む暦の知識は、日本の文化や習慣を理解する上で大切な要素です。吉日や凶日の意味を知ることで、過去の人々がどのように暦と向き合ってきたかを知ることができます。
暦注下段の吉日を日取りの参考にすることは、一つの選択肢です。ただし、その効果を保証するものではなく、あくまで自分自身が納得して行動するための手がかりとして捉えることが大切です。
よくある質問
天赦日は選日ですか?
天赦日は選日ではなく、暦注下段に分類される吉日です。一粒万倍日や不成就日などは選日にあたりますが、天赦日は下段の暦注とされます。
黒日にあたる日は避けるべきですか?
黒日は葬儀以外に凶とされる日ですが、それが直接不幸を招くという科学的な根拠はありません。気になる場合は避けて予定を組むこともできますが、過度に心配する必要はないとされます。
暦注下段は今でも使われていますか?
天赦日や天恩日、母倉日などの吉日は、現代でも一部のカレンダーや暦に記載され、日取りを選ぶ際の参考にされることがあります。一方で、黒日や十死日などの凶日は、ほとんど見かけることがなくなっています。
暦注下段はどのように決まりますか?
暦注下段の吉凶は、日の干支、月の十二支、節月(二十四節気で区切る月)などの組み合わせで決まります。それぞれの暦注には固有の決まり方があり、その仕組みは陰陽五行説や干支の考え方に基づくとされます。
まとめ
暦注下段は、暦の下部に記された吉凶の注記で、天赦日・天恩日・母倉日・月徳日・大明日といった吉日と、黒日・帰忌日・十死日などの凶日が含まれます。これらの暦注は古代中国の陰陽五行説や干支の考え方に基づくとされ、江戸時代には民間の暦に広く記載されていました。
明治改暦の際、暦注下段は公式の暦から外されましたが、天赦日などの吉日は現代でも日取りを選ぶ際の参考にされることがあります。一方で、黒日や十死日といった凶日は、ほとんど意識されることがなくなっています。
暦注下段の吉日や凶日は、その効果を保証するものではありません。しかし、暦の歴史や文化を知ることで、過去の人々がどのように暦と向き合ってきたかを理解することができます。暦注下段を日取りの参考にする場合は、自分自身が納得して行動するための手がかりとして、落ち着いて向き合うことが大切です。
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